ぶち猫おかわり

料理ときどきぶち猫二匹

2015年夏 極私的な少女漫画のお勧め5選

 

世間はお休みに入り、のんびりされている方も多いと思います。そんな中でも、久々に読書の時間が取れそう!という方に向けて、(特に誰からも頼まれていませんが、)極私的な少女漫画のお勧めを選んでみました。

百鬼夜行抄

f:id:buchineko_okawari:20150814003556j:plain

百鬼夜行抄 1巻

あらすじ

題名のとおり、夏の夜にぴったりな百鬼夜行のお話です。一話完結で、主人公は妖魔を見る力を持つ大学生(当初は高校生)の飯嶋律。怪奇幻想作家の祖父がつけた式神の「青嵐」とともに、妖魔の引き起こす事件に巻き込まれていきます。

おすすめポイント

どの話も妖魔、そしてそれを呼び寄せてしまう人の心の闇を描いているのですが、前半に提示された謎を後半で解き明かしていく形式のせいか、カタルシスが先に立ち、読後感はむしろ後味よくスッキリです。妖魔を理解不能な化け物とするのではなく、彼らには彼らの事情と理屈があることをきちんと描いているせいかもしれません。怖い話が苦手な人にもお勧めできる怪談話です。

個人的に好きなくだりは、若かりし日の祖父 飯嶋伶と祖母 八重子のエピソード群。大事な人をことごとく妖魔に殺されてきた伶の孤独を、おてんば娘の八重子が救うまでの物語なのですが、最後に結ばれることを知りながら読むと大変ニヨニヨします。

となりの怪物くん

f:id:buchineko_okawari:20150814003606j:plain

となりの怪物くん(1)

あらすじ

真面目な優等生だけれど友だちのいない雫(表紙中央)と頭脳明晰だけれど問題ばかり起こしているハル(表紙右)の恋物語。はじめはぶつかり合う二人ですが、惹かれ合い、自分の気持ちと向き合う中で人間的にも成長していきます。

おすすめポイント

基本は恋愛ものなのですが、脇を固めるキャラクターが魅力的で、中盤以降は主人公の二人とともに壁にぶつかり、それを乗り越えて成長していくサブキャラクターたちの物語も楽しめます。特に、ハルの幼なじみで雫に片思いをするヤマケン(表紙左)のエピソードがなんとも言えず切ないので、彼に感情移入をして読むことをお勧めしたいです…!

この世界の片隅に

f:id:buchineko_okawari:20150814003614j:plain

この世界の片隅に : 上 (アクションコミックス)

あらすじ

第二次世界大戦中の広島で慎ましく暮らす「すず」の物語。乞われるがまま見知らぬ町に嫁いだすずは、持ち前の朗らかさと明るさで周囲に馴染んでいきますが、戦火の拡大とともに生活は圧迫されていき、ついに8月6日がやってきます。

おすすめポイント

すずの成長と慎ましやかな生活が柔らかい絵柄で細やかに描かれ、いつまででも読んでいたい気持ちになります。しかし、第二次世界大戦の最後、広島に何が起こったかは、誰もが知っているとおりです。結末を知っているだけに、なにげない日常のひとこまが切なく胸に迫ります。戦争は弱い者からより多くのものを奪う。8月に読みたい物語です。

 

町でうわさの天狗の子

f:id:buchineko_okawari:20150814003602j:plain

町でうわさの天狗の子(1) (フラワーコミックスα)

あらすじ

天狗の神様の娘である秋姫(1巻表紙左側)は、幼なじみの榎本瞬(1巻表紙右側)をお目付け役に、町から少し離れた高校に通うことを許されます。イケメンの同級生に恋をしたり、友だちとの絆を深めたり、高校生活で成長していく秋姫ですが、やがて自分の中に眠っている力がコントロールできないほど大きくなっていることに気付きます…。

おすすめポイント

このお話もサブキャラクターが魅力的なのですが、なんといっても幼なじみの瞬ちゃんがかっこいい。朴念仁ゆえに、秋姫への好意を表に出さず保護者としてただ見守り続けるだけ。その献身的な在り方が切なくてよいのです。

二冊目の表紙にチラッと見えている「金ちゃん」を始め、サブキャラクターの造形は非常にシビアなのですが、それぞれに固有のエピソードが用意されていて、はじめは悪者のようだったキャラクターも読み進めるうちに好きになってしまいます。

ふんわりした学園もののようでありながら、序盤からひっそりと張り巡らされた伏線が最終巻できれいに回収され、物語は大団円を迎えます。安心して読める優しい物語です。

スター・レッドf:id:buchineko_okawari:20150814003559j:plain

スター・レッド (小学館文庫)

あらすじ

24世紀の地球で暮らす少女レッド・星は、月世界人を名乗るエルグに導かれ、焦がれてやまない生まれ故郷の火星へと渡る。流刑地であった火星の悲惨な歴史、そこで新しく生まれ火星人と呼ばれるようになった特殊能力を持つ人々と出会った星は、大きな運命の渦に巻き込まれていきます。

おすすめポイント

萩尾望都のSF抒情詩の傑作。30年以上前の作品なので、初めは絵が少し古く感じられ、取っ付きにくいかもしれません。しかし、すぐに物語の持つ圧倒的な力に引き込まれるはずです。先住者たる火星人、地球からの新たな移住者、それらに介入しようとする異星人が、自らの意見を強硬に主張しあい、先鋭的に対立を深める中で、星とエルグは身を挺してその危機を救うことになります。物語は壮大ですが難解ではなく、結末まで読み終えた後には、夏の終わりにふさわしい、すべてが在るべきところに収まったのに、過程で永遠に失われたものが名残惜しくどこか寂しいといった気持ちになると思います。読後に訪れる余韻にゆっくりと浸ってもらいたい物語です。

まとめ

もう少し多く紹介するつもりが、紹介文を書くのが思いのほか大変だったので、5作品に絞りました。あまり他で取り上げられていないものを選んだつもりです。このレビューを描くために久々に作品を読み返したのですが、どの作品もこの先何度も読み返すのだろうなと思いました。

これまで、いろいろな場面でわたしを助けてくれた物語たちが、他の誰かの役にも立ちますように。