今年もからすみを自家製しました
昨年から、冬にからすみを自家製しています。昨年の分は割とトラディショナルな方法で作ったのですが、今年は通っている鮨屋の店主からヒアリングした情報などを元に、半生で複雑な味わいのするタイプに挑戦しました。
結論としては、今年のほうがおいしかったので、今後はこちらの方法で作ることになりそうです。以下工程ごとに説明します。
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工程1:仕入れ
からすみの材料はボラの卵巣です。ここではボラ子と呼びます。ボラ子の仕入れは、そろそろかなという季節(11月から12月頃で年によって多く出る時期が違う。)に築地場内に行って、直接探して購入しています。
仕入れの際のポイントは産地だそうで、一番お勧めなのは九州近海で採れたもの。関東近郊の海で採れたものは臭みが出ることがあると聞きました。
今回購入したのは、宮崎産(写真上)と長崎産(写真下)のそれぞれかなり大きいサイズのものを各一腹(二つの房がセットで一腹)と少し試したいことがあったので、兵庫産の小さめのものを三腹仕入れました。
工程2:血抜き
買ってきてすぐに行うのは血抜き作業です。写真のようにボラ子の表面には血管があり、血液が残ると臭みの原因になるのでできるだけ丁寧に取り除きます。
わたしは、消毒した細いまち針にて、血管の表面だけに穴を開けるイメージで数センチおきに刺してから、氷水に浸けて冷蔵庫に一晩置くという方法を採用しています。冷やすことで血管が収縮して血管中の血液が水中に放出される仕組みです。
血が多く残っている部分はまち針の背や竹のヘラなどで軽く押して、刺して開けた穴から押し出すようにしてもいいですが、ここでボラ子の皮が破れると大変なことになるそうなので、慎重にやりましょう。
こちらが一晩置いたもの。かなりきれいに血抜きできました。
こちらは兵庫産の少し小さめサイズのもの。血抜き前です。
同じ方法で血抜きしたもの。こちらもほとんど気にならない程度に血抜きできました。
工程3:塩漬け
その後、すぐに塩漬けの作業に移ります。塩漬けのやり方には本当に諸説あるのですが、今年は「ボラ子の表面に塩をまぶして常温で半日置く」という方法を採用しました。塩はゲランドの塩を使い、量は特に測っていません。結論としては、この方法で特に問題なく完成しました。
半日置くだけでも結構な量の水分がにじみ出てきます。写真は、塩漬け後に表面の塩を拭ったもの。表面はかなり固くなっています。この段階でボラ子のつなぎ目についている魚の身を小さく切り取りました。浸けたり干す過程でこの部分が酸化して臭みの原因になることがあるそうなので、できるだけ小さくしました。
兵庫産のものも同様に塩漬け。本当はサイズによって塩漬け時間を変えたほうがいいのでしょうが、家庭料理なのでそこまではしていません。
工程4:塩抜きと味付け
表面の塩は水で洗い流してから表面をキッチンペーパーなどで拭き、消毒した細いまち針で全体をプスプスと刺します。塩漬け後はボラ子が全体的に固くなっているので、皮が破れるリスクは低く、貫通するイメージで刺して大丈夫です。この後に漬ける調味液を全体に均等に浸透させることが目的です。
兵庫産のもの。同様に針で刺していきます。
写真のボラ子の下に敷いているのは食品用の吸水シートです。いわゆるピチットシートほど強力に吸水する必要はないけれど、素材の下側に溜まりがちな水分を取り除いておきたいという場面で使用しています。
塩漬けしたボラ子の塩抜きには、日本酒をベースにして、その半量の焼酎を混ぜたものを調味液として使用しました。日本酒はみむろ杉の特別純米辛口、焼酎は芋焼酎の卉六。
実験的な試みとして、同じくみむろ杉をベースに半量のウィスキー(シーバスリーガル)を加えた調味液も用意しました。
右側が、日本酒と芋焼酎を1:2の割合で配合した中に昆布とだしパック入り鰹節を入れて冷蔵庫で一晩寝かせた後、みりんと醤油を加えた調味液。左は、芋焼酎をウィスキーに置き換えたものです。
塩漬けしたボラ子と調味液をジップロックに入れて、大きいほうのサイズはこのまま冷蔵庫で丸三日置きました。漬けている期間に、浸透圧によりほどよく塩抜きされつつ、調味液のおいしい成分がボラ子の中にしみていくという仕組みです。
兵庫案のほうは2つは芋焼酎で、一つだけウィスキーで調味したものを作ってみました。こちらはかなりサイズが小さかったので、丸二日間で引き上げました。
工程5:乾燥
調味液から引き上げたボラ子は、全体に水分が満ち満ちた状態です。ここから干しの工程に入りますが、干しにも本当に諸説あります。鮨屋の店主からヒアリングしたところによると、ボラ子は屋外に干す必要は特にない、排気ガスが当たるくらいなら冷蔵庫で干したほうがいいとのことだったので、これを信じて今年はすべて室内で干しました。結果として、問題なく完成しました。
最初の二日間ほどは、とにかく水分が多いので、ピチットシートで包んだ状態でバットに置き(ラップはしない)、冷蔵庫で干しました。
兵庫産のものは小さい分早めに乾くので、ピチットシートは一晩のみ。
表面が乾いてきたら、冷蔵庫から出して干し網に入れて室内で乾燥させます。ここだけ写真を撮り忘れて去年のものなのですが、今年は衛生面が気になったので、干網の内部に網つきのバットを入れて、その上に吸水シートを敷いてボラ子をのせる(吸水シートは毎日交換する)という仕組みにしました。
干すときの注意点ですが、下になる部分に水分が溜まりやすいので、毎日上下をひっくり返します。また、表面だけが先に乾いてしまうことを防ぐため、毎日表面に芋焼酎またはウィスキーをスプレーして水分を補います。写真は100均で購入した霧吹きにお酒を入れたところ。これでシュシュシュっとすると楽ちんです。
干し工程でからすみに触れるときは調理用のビニール手袋を使いましょう。
日光に当てると色がよくなるという説もあるのですが、今回やってみた結果によると、あまり関係なさそう、むしろ産地とか最初の状態で色が決まってくるという感触がありました。衛生面と天候による不測の事態の発生(留守中に干していて雨に降られるなど)を考えると、室内干しで十分そうではあります。
どのくらいの期間干すかという点については、ボラ子の状態や干している期間の湿度等に左右されるので、最終的には切ってみて決めるのですが、兵庫産の小さいほうは干し始めてから10日目、宮崎産と長崎産の大きいほうは2週間くらいで完成ということにしました。
最後につなぎ目部分についているボラの身を取り除き、さらに表面の薄皮を剥いてしまいます。からすみの薄皮は、日本酒で濡らしたキッチンペーパーで包んで5分ほど置くと面白いほどつるりと剥けます。
工程6:パッケージングと保存
皮をむき終えたからすみは、使い勝手を考えて、半腹ずつ真空パックしました。これで使いたいときに使いたいだけ使えるしくみ。冷蔵庫にいれておけば、半年くらいは問題なく食べられる模様です。
左が宮崎産のもので、右が長崎産のもの。毎日お世話をしているとボラ子の個体の識別ができるようになります。
兵庫産のもの。一番右がウィスキーを使ったものなのですが、出来上がりの色が濃い目。香りもスモーキーでおもしろい雰囲気に出来上がりました。
一部は、日頃お世話になっているOKPさんに送りました。
からすみのおいしい食べ方
こうしてできた自家製からすみですが、まずは厚切りにして齧ってみてください。歯ごたえはねっちりとして、出汁と日本酒の芳醇な香りが鼻孔を通り抜けていく。これにすっきりとした日本酒を合わせると最高です。
さらに、かたまりのまま表面だけを炙ると、香ばしさが加わるとともに出汁と日本酒の香りが膨らんで、よりおいしくなります。炭火で炙るとなおよしです。
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断面。表面はカリッと中はねちっとして、わたしはこの食べ方が一番好きです。お店には敵いませんが、真似して作ったものしてはかなりいい線をいっているのはないでしょうか。
スライスしたからすみをそのままバージョンと表面を炙ったバージョンで食べ比べもしましたが、表面だけ軽く火を入れたほうが香ばしくて香りも立っていておいしい気がする。
からすみはゼスターグレーターで削れる食材なので、写真のように薄切り大根の上にたっぷりからすみを削りかけることで、からすみ大根的なオツマミを作ることも可能です。これもとてもおいしい。
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削ることを考えると応用範囲は広くて、パスタに絡めるもよし、写真のようにイクラ丼にさらにトッピングしてもよし、グラタンの表面にかけるもよし。
完成品を購入すると値段が高くて使うのに躊躇が生じやすい食品ですが、自家製だと割りと気軽にいろいろな料理に振りかけられて、実験みたいなこともできて面白い思います。
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